知識集約型社会を支える人材育成事業 インテンシブ・イシュー教育プログラムのモデル展開

Interviews
インタビュー

教員インタビュー

神里 達博

神里 達博 千葉大学大学院国際学術研究院 教授

神里先生は、2021年度までの「クロス・メジャー・プロジェクトI」(CMP I)の運営コンセプトを作られました。2022年度に大きく刷新されたこの授業の改変の内容と、国際教養学部の今後の展望などについて伺いました。

自身の中心的な研究テーマや、最近のご関心を教えてください。

「科学技術社会論」の授業風景 「科学技術社会論」の授業風景

科学技術社会論(STS)を専門としていまして、主に「リスク」の問題を昔から検討しています。科学技術社会論というのは、社会と科学技術の界面に生じるさまざまな問題について、分野横断的・学際的に検討する分野です。私はもともと工学部の化学工学の出身で、当時はバイオテクノロジーが流行り始めた頃でした。卒業後、今の文部科学省にあたる科学技術庁に勤めた後、科学史・科学哲学の大学院に入り直して、「通時的な視点から、科学という不思議なものと社会との関係を位置づける」という仕事をするようになりました。
最初の頃に研究で扱ったのはBSE(狂牛病)に関わる問題です。20年も前の話で、構造はより複雑になっていますが、専門家と社会の関係という意味では、今の新型コロナウイルスの問題とも共通点があるかなと思いますね。

国際教養学部には多様な領域の教員が在籍している。

STSという分野では社会とコミュニケーションをとるのが大事だけれども、私はプロの科学者や技術者とコミュニケーションをするのも好きで。その点で、国際教養学部にはプロの研究者の先生方が色々な分野でいらっしゃるので、とても面白いと思っています。例えば、千葉大学に来てすぐに、植物生態学の上原浩一先生にお声がけいただき、環境省の助成で奄美大島における生態系の維持に関わる人々の調査・研究を行いました。この学部にいる先生方とのコラボレーションで、面白いことをしていく芽はまだいろいろある気がしています。

国際教養学部における学生への教育という面で感じていること、心がけていることは。

理系でも文系でも、いろいろなことに関心がある学生に入ってきて欲しいなと思っています。ただ実態としては、数学や物理に強い苦手意識を持っている文系出身の学生や、世界史を全く知らない理系の学生が多くいます。他の様々な科目の中でも行っていると思いますが、私自身も、最初に高校までの勉強を脱構築し、学問に対する偏見を外してあげるということを心がけています。
国際教養学部では、今まで私たちの社会があまり見ないようにしてきた、いろんな学問間の矛盾やねじれの界面が「断層」のように見えるという面白さがあります。それはこれからより大事になってきますし、この数年間でも面白い学生を育てることができたのではと思っています。

昨年度までの「クロス・メジャー・プロジェクトワークI」(CMP I)は、神里先生が運営のコンセプトを作られたと伺いました。

インタビューの様子

昔、早稲田大学で私が行っていた、「7人のチームで、1冊の共著の本を書く」というアクティブラーニング型のゼミがベースになっています。当時はSTSに関わる科目として、「エネルギー」や「生命科学」など大きいお題を1つ与え、グループごとに多角的に検討してもらっていました。共著なので、メインの問題意識を整理する章もあれば、現場や特定のケースにフォーカスを当てた章もあってよく、それぞれ編集会議や取材を行って、最終的にプレゼンをしてもらっていました。
国際教養学部では、STSよりもさらに多分野にわたるため、共著のテーマ自体もグループで議論して決めてもらう形にしました。これはこれで良かったと思う一方で、例えば「決定したテーマに興味がない」という学生が出てしまう問題もありました。ただこれは一長一短で、「自分が何をやりたいのか」ということが分かっている人には、本来教育は必要ないわけですよ。むしろ教育というのは、「自分が何をしたいのか分からない」という人に対して、自分が何をしたいかを一緒に発見していく、伴走するという面が大きいと私は思います。その意味で、自分が興味のないことにも巻き込まれてしまうチャンスがあるという点では、昨年度までのCMP Iにも教育効果があったのではないかと捉えています。
今年度からのCMP Iでは、自分が興味のある分野を選択して学ぶ形になりましたが、複数科目を選ばせることによって、自分がそれほど関心のなかった分野に触れる経験が得られるように思います。ですので、思想は同じで、具体的な運用の仕方が違うということだと捉えています。

今年度から始まった新たなCMP I「『測る』を測る」において、先生はどのような授業を。

東島仁先生と一緒に、STSの内容のことをやっています。前半は私が担当し、教科書的な文献を輪読して、議論する。後半は東島先生がアクティブラーニング型の活動を実施されています。この科目は、第2タームで実施している私のゼミ(「科学技術社会論」の授業)に接続する形にしました。CMP Iの方が少し易しく、ゼミの方が骨の折れるもので、CMP Iで面白いと思ってくれた学生がゼミにも参加してくれています。昨年度はこの導入ステップがなく、最初から難しい内容でしたので、STSの学びという観点で言えば今年度の方が良いのでしょうね。

最後に、今後の国際教養学部への期待や展望を教えてください。

やはり「イシューベース」「イシュードリブン」を謳っている学部ですから、イシューでもって成果を示していく、埋め尽くしていくのが良いだろうと思っています。教員も、学術誌に論文何本ということだけでなく、社会、行政、企業など色々なところとコミュニケーションをとりながら、大学をハブとして使っていくという志向の人の「梁山泊」になったら面白いですね。変な人が集まるところになって欲しいなと思います(笑)

神里 達博(かみさと たつひろ)

千葉大学大学院国際学術研究院 教授。同、総合国際学位プログラム長。博士(工学)。旧科学技術庁、大阪大学コミュニケーションデザイン・センターなどを経て現職。朝日新聞客員論説委員、日本学術会議連携会員なども務める。専門は、科学史、科学技術社会論、リスク論。専門主義と民主主義の関係や、科学技術に伴うリスク、ITや生命科学に関する倫理問題などについて研究を行う。主な著作に「リスクの正体:不安の時代を生き抜くために」(岩波書店, 2022)、「文明探偵の冒険:今は時代の節目なのか」(講談社, 2015)など。