知識集約型社会を支える人材育成事業 インテンシブ・イシュー教育プログラムのモデル展開

Interviews
インタビュー

学生による教員インタビュー

鈴木 雅之

真っ暗闇の中で、

失敗を恐れず一歩踏み出すチャレンジを

地域研究・建築学 鈴木雅之 教授

インタビュー日時:2023年1月18日
聞き手:国際教養学部3年 塚本・4年 神田

ご自身の専門分野、及び、研究の中心的なテーマを教えてください。

学生によるインタビューの様子 学生によるインタビューの様子

人口が減少する中での地方やコミュニティの衰退に対応した「地域実践研究」や「活性化プロジェクト」を行っています。特に、地方に魅力のある産業を起こすための住民のネットワークや新しい特産品、ツアーなどを考えるとともに、それらの手法を研究しています。

地域実践研究は、建物が古くなったり住民が高齢化してきたことに対応する理論がなく、実際に困っている人もいたので、「再生」に向けて新しいことをやろうと思って取り組みました。社会情勢として地方の衰退もあったので、そこにも繋がるなということで、そこから地方創生にも展開していきました。

あと、住宅地や集合住宅についても研究しています。少子高齢化などによって人々のライフスタイルや社会の情勢が変わっていく中で、どういう集合住宅のあり方が良いのかを実際に調査したり、先進的なアメリカやヨーロッパに行ってトレンドを調べて、そのエッセンスを日本に合わせて計画や設計として落とし込む研究です。

工学部建築学科出身ということですが、大学で建築分野を専攻した理由や、その研究に興味を持ったきっかけを教えてください。

子どものころ、私は田舎で育ったんだけど、当時の田舎の住宅って大工さんが建物を建てるのね。その際、大工さんが鉋を削る所作をいいなと思ったのが、最初の出来事です。

その後、実際に自分で図面を引いてる様子とかそういう伝統的なことを漠然と良いなと思って、家づくりのようなことをやりたいと思ったということが一つと、私は絵を描くのが好きで、高校でも美術クラブに所属していて、どうせやるんだったらその方面に行こうと思って建築学科を専攻しました。

大工さんや家づくりをやりたいと思って建築学科に入ったということですが、そこからどうして研究者に変わっていったんでしょうか。

私が研究者かというとあんまり正確ではなくて、実践者でそれを教育や研究に活かしている人と言ってくれた方がいい。それを一言で表すいい言葉がないんですけど。

それで、大学院を卒業した後は10年間、設計兼コンサルティング事務所で働いて、集合住宅の設計もやってたんですよ。でも設計の方は、そこまでうまくはできなかった。どちらかというとコンサルティングの仕事の中で、国や県、民間ディベロッパーや建設会社が新しい住宅を建てる時に、魅力のある住宅のあり方を調査・研究したり、世界のトレンドを見て提案したりすることに面白さを感じていました。

ただアイデアを出したり、提案するだけではもう一つ物足りなくて、そのうちに実現できる方に関心が強まっていきました。地方創生の実践プロジェクトなどはその延長にあります。

国際教養学部で教育を行うことの面白さ、難しさはありますか。

専門性の高い学部だと、学問の継続性や資格取得に必要な構成から科目がある程度自動的に決まってしまうのだけど、国際教養学部では、私が伝えたい授業を作ることができるのが面白い。

例えば「地方創生論」であれば、未来を背負って立つ学生たちに、今伝えるべき産業や地域について扱うことができる。また「都市・郊外・地方論」という新しい授業を今年から始めるけれど、建築や住宅のことに加えて、政治、経済、社会とかの観点から、どのように都市や郊外や地方が成り立っているのかも扱おうとしています。そのような学問は世の中にないのですが、こういったことができるのが国際教養学部にいて一番面白いです。

ただ、教えるためにはさらに知識が必要だし、たくさんの伝えたいことを限られた時間にどう落とし込んでいけるかを考えるという難しいところもあります。また地域や地方創生は本来リベラルアーツ的なもので、色んな方面のことを学びながらやるものだと思います。

先生が学外でされている活動について教えてください。

横芝光町のシティマネージャーと「ちば地域再生リサーチ」というNPOをやっています。
横芝光町のシティマネージャーは2015年に国が作った地方創生人材支援制度で派遣されて、最初は一年間かけて横芝光町の再生、地方創生のためのビジョンや政策を作ったりして、そのあとは町民や町の役場の人と一緒にそれを動かしています。NPOでは、衰退してきている団地やニュータウンで、市民サービスを20年くらい。

どちらも大学の研究や授業とは全く別の、いわゆる実践としてやっているのだけど、そこで得られた知識や知恵を大学の教育や研究に活かすという循環を自分の中で回して、学生にも伝えることができているということは幸せかなって思います。

町民とともに、横芝でニューツーリズム開発の会議 町民とともに、横芝でニューツーリズム開発の会議
ニューツーリズム開発のためのカヤック体験 ニューツーリズム開発のためのカヤック体験
ドイツからの留学生も交えた横芝光町でのカヤック体験議 ドイツからの留学生も交えた横芝光町でのカヤック体験

先生のゼミ(メジャープロジェクト(MP)やクロスメジャープロジェクト(CMP)の授業)では、どのようなことをされていますか。

まず大前提は、国際教養学部のDP(ディプロマ・ポリシー)に向けて忠実に行うこと。課題を発見して、それを学際的に解決するところまでを、1年半を通してやっていく。もちろん、その1年半でプロのレベルまでいかないし、課題解決もそんな簡単にはいかない。だから、私が学生に残せるものは、課題の見つけ方や、解決するためにはどんな努力をすればいいのかなど、「思考の型」を獲得してもらうことだと思っています。それがあると、社会に出て、商品開発とかルールづくりとか新しいものごとを考える時に、何が本当の課題かを見つけてソリューションにつなげられる。

その中でCMPIIは、課題を見つけてどうアプローチするのかを最初に練習する場として、いろんなデータや情報を掛け合わせて「誰も知らない、3つの新しい事実」を見つけてもらうということをしています。情報を消費するだけではなく、情報を生産する側に立ってもらう経験をさせる。MPは基本その延長線上にあって、さらに課題を深堀りしたり新たに発見して、アンケート、インタビュー、文献調査などを通して、ソリューションに近づけるということをしています。最終的には、私のゼミでは論文ではなくて制作を行うことを学生に推奨してます。就職したら、論文なんて書くことないんだから…(笑)

先生のゼミでは、テーマは学生次第という感じですか。

そう。学生には全く誘導も何もしない。学生が自ら見つけてくる。だから僕が学生のテーマに合わせて勉強をしないといけないよね。基本的に地方創生をしたい人が来るからテーマは繋がっているけど、全く違う人もいるね。

先生が授業や教育活動の中で重視していることや、意識されていることはありますか。

一番重視することはやはり「自ら課題を発見する型」と「解決するためのアプローチの型」が分かること。解決方法がベストであるかどうかは関係なくて、社会に出て通用するスキルを身につけていってほしい。

そのためには圧倒的に知識の量が重要で、新しい局面や誰も知らない課題、まあコロナがまさにそうだけども、専門しかやってない人の知識やスキルでは全く通用しないということが分かった。その時にはじめて他の学問やリベラルアーツが生きてくるので、そういったものをトータルに考えてもらえるようなことを意識しています。

ご自身の大学時代についてお聞きします。先生はどのような大学生でしたか?

ざっくり言うと、まさにバブルとともに生きてきたという感じ。アルバイトを週7でやったり(当時は時給5,000円だった)、バイト先の社会人とサイパンにゴルフに行ったり、東京のディスコに行ったり、っていう時代かな。

でも、やっぱり真面目な私もいて、そんなことをしながら、3年生のころから毎日1冊本を読むっていうことを始めたのね。授業中とか家庭教師とかの間も、できるだけ本を読む。読書は今でもずっと続いてるので、社会人になってもおすすめで、やっておくといいなって思います。あと映画もできるだけ観ようとしていました。

だから時間がなくて、遊ばなきゃいけないし、映画も勉強も、みたいな。

今の大学生に、薦めたいこと(学び、体験、など)などがあれば教えてください。

失敗を恐れずに人生経験なり社会経験をたくさん積んでいってほしい。恋愛でも失敗してそれをリカバリーしてPDCAを回していくことが大事だし、人と関わることでしか得られない体験、人との付き合いの中でしか身につかないスキルというのがあると思います。それは社会人になる大学生に薦めたいことで、国際教養学部なら特にそうじゃないかな。

趣味や好きなことはありますか?

テレビを見ることだね。今はドラマと映画鑑賞。外国ドラマや海外映画は社会の見方を広げられると思って観ている。あとはお酒。コロナでステイホームの時期は一番つらくて、毎日飲んでいました。他に、お昼休みに毎日テニスをしています。

座右の銘はありますか。

座右の銘かは分からないけど、坂本龍馬の「世の人は我を何とも言わば言え我なすことは我のみぞ知る」、この言葉が好き。要するに、あんまり人のことを気にしないでやりたいことやりなさいと。

もう一つ、この言葉とも繋がるんだけど、私が横芝光町のシティ・マネージャーに任命された際に、(当時の地方創生担当政務官である)小泉進次郎さんから言われたのは、「いちいち、一喜一憂しない」。性格という部分もあるけど、やっぱりそれがないとくじけちゃうときもあるので。

鉄板ネタのようなものはありますか?

それはネコだね、ネコ。オンデマンドの授業にもちょくちょくネコがでてきます。なにより、私が癒されるので。

国際教養学部の今後の展開に期待することを教えてください。

やっぱり新しい学部なので色々試行錯誤はしなきゃいけない。うまくいかなそうなところは修正していく。新しい先生も来たりして、可能性やポテンシャルも出てくる。良いところは伸ばして悪いところは修正してよりDPに近い人材輩出を目指していく。そうやって常に未来に向けてカスタマイズしていく学部であり続けることを期待します。その他大勢の学部ではなくて、大学の中で常にフロントランナーとして開拓するような学部、その中身を社会の変化に合わせて柔軟に変えられる学部としての改革を進めていく。他の学部ではできないことだと思うので、そうなっていくといいと思います。

1・2年生におすすめの本

山口周(2019)『ニュータイプの時代』ダイヤモンド社

著者は、「課題というのは既に出尽くしている。でも社会が変わらないのは、課題が見つかってないから」という考え方の人。だから、新しい課題を自分から見つけていかないといけない。その課題の見つけ方としては、やはりこういう社会、こういう日本にしたいっていうビジョンがないと出てこないんじゃないかっていう。面白い考え方だなと思って。是非読んでみてください。

山口周(2019)『ニュータイプの時代』ダイヤモンド社

鈴木 雅之(すずき まさゆき)

千葉大学大学院国際学術研究院 教授。同、コミュニティ・イノベーションオフィス地域イノベーション部門長。博士(工学)。横芝光町シティマネージャー。建築計画コンサルタント事務所、千葉大学キャンパス整備企画室などを経て現職。専門は地域再生、地方創生、建築計画。6次産業、観光、CCRCなどの視点から地方創生、地域産業の振興について研究を行う。主な著書に「ホリスティック地域学」(学術研究出版, 2020)、「未来につなげる地方創生:23の小さな自治体の戦略づくりから学ぶ」(日経BP社, 2016)など。