知識集約型社会を支える人材育成事業 インテンシブ・イシュー教育プログラムのモデル展開

Interviews
インタビュー

学生による教員インタビュー

永瀬 彩子

未来を見据えた

都市緑化の在り方を考える

都市環境デザイン 永瀬彩子 教授

インタビュー日時:2023年1月12日
聞き手:国際教養学部3年 宮村・塚本

ご自身の専門分野、及び、研究の中心的なテーマを教えてください。

学生によるインタビューの様子 学生によるインタビューの様子

私の専門は「都市環境デザイン」です。都市の中で緑化がどのような役割を持ち、どのように緑化すれば、より良い環境が作れるのかについて、様々な角度から研究を行っています。

その中でも今後中心に置きたいことは、「将来を見据えた都市緑化」です。単に緑化をするのではなくて、何十年後といった未来を見据えながら緑化をどのように発展させていくかを考えながら研究をしていきたいです。その理由は、スマート化などにより、今、街の在り方が大きく変わろうとしていて、今までと同じ都市緑化ではなく、新しいアイデアをもって変わっていくべきと考えています。

その時に重要になってくるのが、「生態系」だと考えています。生態系や生物多様性というと昆虫や自然を思い浮かべる人が多いのですが、「エコシステム」という意味では「人間も含めた生態系」です。自然からの恵みがないと私たちの生活は成り立たないことを認識して、生態系と人々の生活とは都市においてどのような繋がりがあるのかを考えながら研究していくことが大切だと思っています。

先生が行われている都市養蜂と、生態系というテーマとの関連を教えてください。

西千葉キャンパスにおける養蜂の環境教育の様子 西千葉キャンパスにおける養蜂の環境教育の様子

私のことを「ミツバチの先生」と思っている学生もけっこう多いみたいですけど(笑)、実はミツバチはきっかけで、エコシステム、つまり自然界と私たちの生活を結び付ける手法として、ミツバチに注目しました。西千葉キャンパスの自然科学棟の10階でミツバチを飼育していて、ミツバチが持って帰る花粉を分析して、都市のどのような植物を使っているのかを分析しています。今までの研究から、クローバー等の雑草や街路樹などが重要な花粉源だということが分かってきました。

そのため、都市環境では、綺麗な緑化だけでなく、多くの人が見過ごしているような空き地にあるような花を守っていくことも大事だと考えています。あくまでも目的は、人と都市にある緑化のつながりを考えるということですね。また、都市養蜂自体も広がりがあって、食べることや、養蜂箱のデザイン、ハチ自体にも社会性があって面白い生態があり、すごく興味深いテーマで、いろんな人とコラボレーションできると思っています。

先生が都市緑化を専攻した理由や、研究に興味を持ったきっかけを教えてください。

私自身結構モラトリアムが長くて、大学卒業した後も、迷っている時期が長かったのですが、研究に興味を持つきっかけとなったのがイギリスに留学したことです。イギリスには修士課程と博士課程を含めて6年間いました。修士課程では園芸とランドスケープを学びましたが、それでも物足りなくて、博士に進学しました。

博士の時の指導教員であるナイジェル・ダネットが「都市生態系」が専門の先生で、「生態系の視点から都市緑化を考える」ということにすごく興味を持ち、今の研究に繋がっています。最初は都市緑化技術をテーマとして、屋上緑化の環境で生育できる植物や、環境改善効果が研究の中心だったのですが、今では人を含めた生態系を考える研究に広がってきています。

学部時代はどのようなことを専攻していたんですか。

園芸学部で農業に近いことを学びました。卒業論文では、野菜を使った屋上緑化をテーマにしました。生態系は独学に近くて、大学院生になってから勉強しました。

国際教養学部で研究や教育を行うことの面白さ、もしくは、難しさがあれば教えてください。

面白さと難しさは両方あると思っています。専門が同じ人が集まっている学部では、「阿吽の呼吸」でできちゃうというか。例えば、みんな都市緑化が重要だという認識なので、逆に「なぜ都市緑化が必要なのか」といった根本的なことを考えるきっかけがないんです。国際教養学部にはいろんな分野の先生がいらっしゃるので、違った視点を取り入れることができるということはすごく大きな強みだと思っています。また、いろいろな研究があるので、私も学生のような気持ちになって、たくさんのことを学ぶ機会があります。

一方で難しさとしては、他の先生の専門領域について深く知らないので、評価がすごく難しいと思うことがあります。例えば、その研究手法が新しいのか古いのか、適切なのかを評価するのが難しいことがあります。また教育に関しては、専門の授業が少ないと、学生は独学で勉強しないといけないので、それは大変だと思います。ただ、私自身の生態学もそうでしたが、教えてもらったことよりも自分で学んだことの方が意外と頭に残ると思います。また、専門知識を学ぶことは、個人の熱心さや努力にかかっていると考えています。

今行っている研究で大切にしていることは何ですか?

実践的で、「なぜこれが社会に役立つのか」ということをしっかり伝えていくことを心掛けています。さらに、研究には新しい視点がないとダメだと思っています。研究者は常に新しいことを、時代を先取りすることを心がける必要があると思います。そのために、国際的な視野を重要視しています。海外から学ぶという姿勢ではなく、一緒に研究を行って、国際研究をリードできることが重要だと思っています。

研究者として、楽しかったり、つらいと思うことはあったりしますか。

研究者として働く楽しさというのは、専門家に協力してもらい、専門知識を増やしながら様々なプロジェクトに取り組めることです。例えば、私自身は養蜂の研究からDNAの分析を始めました。それまではDNAについては基礎知識しかありませんでした。養蜂の研究では、最先端のDNA解析について学生のように学びながらそれを生かすことができました。また、世界中に知り合いができるということもすごく大きいです。

一方で、難しさは論文を書く時間があまりないということですね。マルチタスクで、なかなか時間が十分に取れないところが難しいですが、工夫してやっていくしかないと思っています。

メジャープロジェクト(MP)やクロスメジャープロジェクトII(CMPII)の授業で行っていることを教えてください。

学生によるタイでの研究発表の様子 学生によるタイでの研究発表の様子

MPやCMPIIでは、決めた課題で論文を読んで、それを発表することを行っています。アカデミックなことだけだと視野が狭くなるので、企業や役所などの外部の方にご協力いただき、共同で研究をしたりディスカッションすることも積極的に行っています。

また、海外の研究者とのつながりを大事にしています。できるだけ海外に行き、研究をして様々な経験をすることも推奨しています。例えば、シンガポールでインタビュー調査をしたり、タイでインターンシップを行うなど、コネクションを最大限に利用して、国際的な視野で活動できるように提案しています。

国際教養学部の学生は、どこに行っても積極的に活動するので、私が全部お膳立てするというよりは、話し合いながら学生中心でやってもらうということが多いですね。それができる環境が整っているというのは、私も感謝しています。

セルフデザインギャップターム(SDGT)の活動について聞かせてください。

SDGTでは、上原浩一先生の研究室と一緒に、実験手法や分析手法など、技術的なものを身につけることを目的にしたプログラムを実施しています。そのほか、最近はVRの動画を作って教育に活用しています。例えば、先ほど紹介したミツバチの花粉源から緑化を促進する研究で、その流れやDNA分析の過程を可視化して、理解を深めるための動画を作成しました。

その他には、養蜂について学ぶ動画や屋上緑化の植物についての動画を作成しました。屋上へはいつも行けるわけではなく、ハチに刺されたりすることもあるので、天候に左右されず安全に学べるようにするためです。また、VRに頼りすぎることなく学びを深めるために、現場とVR両方使って進めています。

これまでの指導学生はどのようなテーマに取り組んでいましたか。

ミツバチの花粉分析による都市緑化促進、西洋ミツバチと他の野生のハチの緑地利用の違い、街路樹の熱環境、フィンランドの屋上緑化の土壌菌類の調査、スマートシティにおける緑化政策など、本当に様々だと思います。海外と共同研究をしている学生も多いです。研究のテーマは学生の興味に合わせて、かつ自分のテーマをすり合わせていくという感じで決めています。一貫していることとして、どのような都市緑化によって質を高めるのか、人と都市緑化の関係は重要視しています。

先生が、学生時代にやっておいてよかったと感じることはありますか。

映画を見たり、本を読んだり、友達と話したり、いろんなところに旅行に行ったりとか、視野を広めたことは、すごく良かったかなと思いますね。大学時代にしかできない活動が重要かなと思いますね。学生時代はとても楽しくて、本当に懐かしく思い出します。

仕事を始めると「みんなで」楽しく話したりする機会が減ってしまいます。授業の合間など、パソコンやスマホなどを見て一人で過ごすよりは、みんなでワイワイやるほうがいいのかなと思ったりしますね。

趣味や、好きなことは何ですか。

DIYや料理も好きですし、専門以外でガーデニングをやったりしていて、何かを作るのはすごく好きですね。あとはオンラインの運動のレッスンも続けていて、ヨガや散歩も好きです。あと読書や映画も。結構おとなしい感じの趣味が多いかも(笑)

先生の座右の銘についてお聞かせください。

好きな四字熟語だと、「花鳥風月」で、美しい風景を大切にしたり、遊び心とか文化を愛でる力というものは大事にしたいです。また、何をやるにしても、楽しんでやろうという姿勢は大事だと思っています。そういう意味では、できるだけいろんなことをポジティブにやっていこう、楽しもうっていうのが座右の銘ですかね。学生時代は自分からやることがほとんどで楽しいことが多いと思うんですけど、就職してから、与えられたことでもどう楽しむかを考えることは重要かなと思いますね。

高校生に向けて、この学部の魅力等をアピールしていただくとどのような点が挙げられますか。

自分でいろいろ学ぼうと思うと多くのことを学べる学部なので、自主性のある方が来られるといいのではないかなと思います。今見ていると、国際教養学部は自主性がある学生が多くて、グループワークなども連絡を取り合って本当によくやっていると思います。

一方で、少し真面目すぎて、視野が狭くなっている人もいるように見えるので、優等生的な発想ではなくて、もっと柔軟でいろんな考え方を持つといいかなと思います。研究でも仕事でもそうですが、AI などが発達している中で重要なのはアイデアなので、学生には自分ならではのアイデアをもつように言っています。したがって、自主性やコミュニケーション力、自分で考える力を身につけることができるのがこの学部の魅力だと思います。

国際教養学部のこの後の展開に期待することはありますか。

もっと共同研究ができるとよいと思っています。今は自分の研究に対して意見をもらったり、意見交換することが多いのですが、これだけいろんな先生がいらっしゃるので、もう少し共同研究が発展するといいかなと思います。2人の教員からの指導を受ける学生などを通じて、共同研究に繋がっていくのも面白いと思いますね。

1・2年生におすすめの本

西條辰義(2015)『フューチャー・デザイン:七世代先を見据えた社会』勁草書房

この本は、インディアンのイロコイ族が「七世代先を見据えてその人たちが幸せになる社会を作ろう」という視点で物事を決定していくという考えを参考にしながら、長期的な視野で将来を考えるフューチャー・デザインが紹介されています。今の社会問題は、目の前の利益だけを優先した結果のつけが回ってきているのかなと思っています。現在の成熟した社会では、将来のために何を取っておくとか、次の世代のことも考えながら選択していくことが、どのような分野でも重要だと思い、この本を選びました。

西條辰義(2015)『フューチャー・デザイン:七世代先を見据えた社会』勁草書房

永瀬 彩子(ながせ あやこ)

千葉大学大学院国際学術研究院 教授。Ph.d.(英国シェフィールド大学ランドスケープ学部)。千葉大学園芸学部、千葉大学工学部、東京都市大学を経て現職。専門は、都市緑化、都市環境デザイン。都市養蜂による生物多様性に考慮した緑化促進や、都市生態系における生物種間ネットワークを考慮した緑化計画、粗放型屋上緑化「屋上はらっぱ」などについて研究を行う。主な論文に「Pollen meta-barcoding reveals different community structures of foraged plants by honeybees (Apis mellifera L.) along space-time gradient in Japan」(Urban Forestry & Urban Greening, 79, 2023)、「Habitat template approach for green roofs using a native rocky sea coast plant community in Japan」(Journal of Environmental Management, 206, 255-265, 2018)など。