Interviews
インタビュー
学生による教員インタビュー
文理の垣根を越え、
身近で不思議で美しいサイエンスを楽しむ
物理学 三野弘文 准教授
インタビュー日時:2023年1月16日
聞き手:国際教養学部3年 伊達・宮村
ご自身の専門分野、及び、中心的な研究テーマについて教えてください。
私の専門領域は、国際教養学部の中で言えば「物理」ということになります。物理と言っても幅広いのですが、元々の専門は「半導体光物性」という分野です。半導体には、我々の目に見える領域の光をよく吸収したり、よく発光したりする性質があります。光のエネルギーをよく吸収するので、太陽光発電に使われていますし、電気エネルギーを光に変換する性質を利用したものとしては、LEDが広く認知されていますね。そういったものの基礎研究が私の専門です。
また半導体にもいろいろあり、元々は無機物だけだったのですが、今は有機物、例えば「有機EL」というものもありますね。光を出すという点では半導体と同じような特性を示すものもあるのですが、そういったものを専門的に研究することもあります。液体ヘリウムを使ってものすごく冷やしてみて、物質の状態がどう変わるかを見てみたり、非常に強力な磁場をかけてみたり、そういった研究を展開していました。例えばある半導体では、極低温下で「円偏光」という特殊な光を当てると、半導体が磁石になる現象があり、それが1兆分の1秒といったような非常に高速で起こったりします。
しかし、教育学部と国際教養学部の学生さんをみるようになって、先端の研究をするとなると実験室にこもって実験をやらなければならないということもありますし、物理学を専門的に学んでいない学生さんにはなかなか難しいというところもあったので、最近はそのような研究はほとんどやっていません。そこで、もう少し身近なところでテーマを設定した方がいいだろうとアレンジして変えてきました。
最近一番注目しているものとしては、2枚の偏光板の間にセロハンテープを貼ると色がつくという現象ですね。偏光板を回していくと、色が出たり出なくなったりするのですが、理論的になぜこのように色が変化するのかを、教育学部や国際教養学部の学生さんと一緒に論文に書きました。この現象の面白いところとして、セロハンテープだけではなく、どこにでもある透明なシートや袋でも色が変わったり、偏光板を90°回転すると、回転前の色と補色の関係になったりします。こういった現象を学生さんに見せると、物理現象とアートを融合していくと面白いのではないかという提案も出て、サイエンスコミュニケーターといった方向を目指す人たちのサポートにもつながると思っています。
ということで長くなりましたが、元々は光に関することを専門にやっていたのですが、最近は学生さんと一緒に、光に関する身近な現象を扱って楽しく研究しています(笑)
先生が物理学を専攻したきっかけや理由を教えてください。
高校の時は物理の点数が良かったという、それだけです(笑)理系か文系だったら数学が得意だから理系を選択し、理系の中でどの学科を選ぶかといった時には、点数が良かった物理で、と決めました。また、将来はサラリーマンになろうとしており、大学に残って研究を続けていく意識はほとんどなかったですね。
いつ頃研究者になろうと考えましたか。
大学2年生になったときにバブルが崩壊して就職難になったので、とりあえず大学院に進学しようと思いました。ただ全然勉強をしていなくて、4年生の時も自分が何をやりたいのかをイマイチ分かっていませんでした。その中で、たまたま先輩に「新物質を発明する記事が面白かった」という話をしたとき、「近いところなら光物性研究室かな」と勧められたのがきっかけで、専攻を選びました。
必死で勉強して、運良くその研究室に受かり、そこでの指導教員との出会いをきっかけに人生がガラッと変わっていきました。研究にのめりこんでいく中で先生がいろいろとケアしてくれて、その先生に魅力を感じて研究者っていいなと思うようになりました。博士論文を書いている時には、正月に先生の家に呼んでいただいたんです。ご飯をご馳走になりながら、時間も無いところで添削していただいて。そのぐらい親身になってもらいつつ、厳しい部分もあり、悔しさを自分で超えていく経験をさせてもらいました。そんな先生の人柄に憧れて、「こんな先生になれたらいいな」と。いただいたものを返していけたらという感じで今はやっていますね。
国際教養学部で研究を行ううえでの面白さや難しさはありますか?
国際教養の学生さんはいろいろな発想がありますから、そこに物理学からアプローチをし、先ほど言った物理学とアートのように何かに組み合わせて、研究の対話の中で新たなものを見つけていくのが面白いですね。アイデアをいただくのが楽しいです。
難しい点は、やはり数学が苦手な学生さんが多いかな、ということですね。高校のレベルでいいので、数学が扱えるスキルを持っているといろいろな科学現象をより良く理解・説明できることが多いです。それらはどうやったら身につくかなと、今は考えています。面白いと思ってもらえないと興味を持ってもらえないのでね。クイズ形式にしたり、なるべく身近なものを扱ったりしながら、「数学アレルギー」を少しでも改善できればなと思っています。
物理現象についても、「この数式が何を意味するの?」ということについて、ここの値が変化するとこういう結果が得られますというのを、パソコン上でシミュレーションをして見せてあげる。そうすると「あ、こう変化するんだ」とイメージで捉えられて面白くなってくるかなと思い、授業で紹介しています。シミュレーション教材は、教育学部から総合国際学位プログラムに進学した大学院生が構築してくれています。
実は、教科書会社と話をしているところもありまして。通常、教科書の中で示されているパラメーターは1つだけで動かないじゃないですか。でも、「もし初速が1.5倍、2倍になったときにどうなりますか」というのを見せられたら、少し興味を持ってもらえて、物理教育の分野を変えていけるんじゃないかなと。そこで教科書に二次元バーコードなどをつけて、そのリンクからシミュレーションが行えると面白いと思い、進めたいなと考えています。
先生の授業の中では、物理を体系的に学んでもらうことよりも、サイエンスカフェのように物理に触れるきっかけを作ることが中心なんですね。
そうですね。ここは理学部物理学科とは違いますし、やはり興味を持ってもらわないと、皆さんが学ぼうという気持ちにならない。例えば、試験をすればその時は覚えているかもしれないですけども、長続きしないと思うんです。いろいろな教育者の方々が言われるように、「いかに興味を持たせるか」という、もうそこに尽きる。授業中に眠らせないというのが私の方針で、一人でも寝ていたらその回の授業は私の負けだと思っています(笑)
学生の興味の維持や喚起以外で、教育活動において大切にされていることはありますか?
学生さんとの垣根をなくすために、授業の内容とは関係ないような話をすることは多いです。せっかく学ぶための良い環境があるので、私の発話で、精神的にやる気にならない学生さんの話を聞いて気持ちを切り替えてもらうこともできればなと思っています。私自身も学生と話をすると元気になりますしね。ただ、よく問題発言をしたり、失言をしたりもします(笑)
研究室で行っている特色ある活動などはありますか。
千葉市科学館で「科学フェスタ」というイベントが10月にあるのですが、そこに毎年出展しています。研究室の学生さん皆に一人一つテーマを考えてくる課題を出して、自分たちで発案してもらい、話し合いの中で今年はどれにしようかと考えています。
今年は、ヒドロキシプロピルセルロースに水を混ぜると、混ざり具合や温度によって色が変わるのですが、それをキーホルダーにして出しました。これは「構造色」という現象で、コガネムシやタマムシ、カワセミなどと同じような仕組みで、キラキラとした色が出ているものになります。これを楽しんでもらい、科学に興味を持つ子どもたちが増えればいいなと考えています。
先生の研究室から、国際教養学部の学生はどのような進路に進むのですか?
卒業した人数がそれほどいないのですが、サイエンスコミュニケーターになるために大学院に進学した人もいるし、公務員、システムエンジニアになった人もいるし、休学して起業して、という人もいますね。教育学部の学生は先生になる人が多いですね、7、8割くらいかな。
先生のお人柄から文系でも三野先生の研究室に行きたい、という学生もいると思うのですが、文系だと難しいでしょうか。
実は半分くらいは理系ではない学生だったと思います。数学は好きではなくても理科や科学には興味がある、という人が多いです。両方に興味がない人は来たケースがないですね。
ご自身の大学時代についてお伺いします。先生はどのような大学生でしたか?
これは本当に問題なのですが、たくさんアルバイトをして月に10万円以上稼いで、新車のバイクを乗り回して、家に帰らないことも多かったです(笑)アルバイトにかなり時間を費やしていたので時間がもったいなかったなと思います。でも4年生になってからは行きたい研究室に入るためにかなり勉強を頑張りましたね。
今の大学生に学びや体験などで勧めたいことがあれば教えてください。
私を真似されたら困りますが、でも自分が熱中できるものがあったらすることが大事ですね。単位は最低限落とさないように、留年しないように頑張って、あとは自分がやりたいことをやればいいと思います。ぼーっとして目標も定まらずにいるのはもったいないと思いますね。
うまくいくかいかないかは、分からないんですよ。やってみないとね。やってみたら意外と評価されるということもありますし、自分にはこんな能力があったんだなという発見もありますからね。学生さんには遊びでもいいからとにかく自分が興味を持っていることをやってみてほしいです。あと、人とのコミュニケーションは大事にしたほうがいい。コミュニケーションが苦手な人は、国際教養学部であればSULAと話してみるのもよいです。恥はかいてなんぼのものなので、チャレンジしてみて欲しいなと思いますね。
趣味や好きなことはありますか。
学生と話すのが趣味みたいなものかもしれないです。昔はテニス、水泳、身体を鍛えることとか空手とか、いろいろですね。ボウリングもはまっていました。ボウリングの球を投げるスピードは誰にも負けない、40何キロとかで投げていました(笑)
映画をたくさん見たり、絵も描きたいと思っているのですが、時間がないです。他にも、プラモデル制作を小・中学生の頃にはまってやっていて、またやりたいとも思うのですが、老眼が進んできてなかなか(笑)
高校生向けにこの学部の魅力をアピールするとしたらなんですか?
“Late Specialization” というのですが、専門性が自分の中で決まっていなくても、この学部に入ったら、先生とのやり取りのなかで自分が本当にやりたいことを定めていけると思います。自分で課題を見つけて解決していくカリキュラムが組まれているので、自分が本当に興味のあることに関して、いろいろな先生の意見を聞きながら、自分のオリジナルの考え方を発展させられるのがこの学部の魅力かなと思いますね。
レベルの高い学生さんが入ってきていますので、教員側も頑張らないといけないなと思っています。教員が自分の専門性を活かしながら、学生さんが新たなものを生み出すサポートをして、皆さんの持っている能力をもっと引き出していきたいですね。
1・2年生におすすめの本
涌井貞美(2015)『「物理・化学」の法則・原理・公式がまとめてわかる事典』 ベレ出版
『「物理・化学」の法則・原理・公式がまとめてわかる事典』は、物理や化学の様々なトピックについて身近な現象と結び付けて、それぞれ4ページくらいでまとめられています。ゼミでも使用していて、国際教養学部の学生さんには向いていると思います。
田所利康・石川謙(2014)『イラストレイテッド光の科学』 朝倉書店
『イラストレイテッド光の科学』は、光の現象をもう少し専門的に扱ったものです。虹やインタビューの中でも述べた構造色のことなども書かれていて、イラストや写真も多くとても参考になります。
三野 弘文(みの ひろふみ)
千葉大学大学院国際学術研究院 准教授。同、国際未来教育基幹 准教授。博士(理学)。近畿大学理工学部、千葉大学大学院理学研究科、千葉大学大学院教育学研究科などを経て現職。千葉大学全学教育センター 副センター長も務める。専門は、光物性物理学。無機・有機半導体における光学応答や、光による電子スピンの操作と観測、太陽電池や光の偏光、波長を対象とした教材開発などについて研究を行う。主な論文に「セロハンテープの枚数と角度で変化する偏光色スペクトルのシミュレーション」(千葉大学国際教養学研究, 5, 79-95, 2022)「Optically induced long-lived electron spin coherence in ZnSe/BeTe type-II quantum wells」(Applied Physics Letters, 92, 153101.1-153101.3, 2008)など。